東京高等裁判所 昭和30年(う)3125号 判決
被告人 渡辺昭典
〔抄 録〕
論旨第一点及び第二点。
凡そ窃盗罪は、他人の所有又は管理する財物をその他人の意思によらないで不法に自己又は第三者の事実上の支配内に移すことをいうのである。而して本件の如くパチンコ遊技場において磁石を使用して不正な方法によつてパチンコの遊技をなし当り穴から玉を取得する行為は、磁石を使用することによつて本来正当な方法によつて遊技し当り穴に入つたとき以外は当り玉を出さないとする遊技場経営者の意思に反し同人不知の間にその支配を排除し、右行為者においてこれを更に使用して遊技を続けるか、或は、遊技をやめて景品と取り替えるかその取得した玉の用法に従つて処分し得べき地位を獲得するものであり、又磁石を使用すること自体は普通一般の窃盗の場合において犯人が何らかの道具を使用するのと些かも異ならないのであつて単なる窃盗の手段と見るべきものであるから、この当り穴から玉を取得する時玉の支配は右行為者に移転し窃盗は既遂に達するものと解するのが相当である。
然り而して原判示犯罪事実は、原判決挙示の証拠によつて優にこれを肯認するに十分であり記録を精査しても右事実認定に過誤はないものと認められる。かりに所論の如く被告人が正当に取得した玉又は不正手段により取得した玉を再び使用して更にそれぞれ取得した玉が本件被告人が窃取したとされている三百七十九個のうちに若干ありとするも、その個数が何個あるかは証拠上確定できないこと所論の指摘するとおりであるがこの点の確定は事実上不可能な事柄であるけれどもその割合はこのような場合には証拠上散見しその推定できる回数その他から推して全体に対する関係において左程多くないものと考えられるのでその全部が不正な取得と見るのも決して不当とはいえない。かりに然らずとするも、本件においてはこれがために被告人の窃盗罪の成否並びにその情状に消長を及ぼすべき程度のものとも思われない。これを要するに原判決には所論のような判決に影響を及ぼすべき法令の適用の誤並びに事実誤認その他の違法は存しないものといわなければならない。論旨は理由がない。